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ただ手を繋いでほしかった

「時にひとは、
壊しながら生きることを選ぶ

愛や安心を懇願しながら
自ら壊していく」

好きな俳優がいる
シャイア・ラブーフ

スピルバーグの秘蔵っ子と呼ばれ、
「トランスフォーマー」シリーズや
「インディージョーンズ」
「ウォール・ストリート」
「フューリー」など
そのカリスマ的演技は第2のトム・ハンクスともいわれ

役作りのために歯を抜いたり、
ナイフで傷を作ったり、とそのストイックなまでの全身全霊をかけた役作りで
数々の有名監督を唸らせてきた。



その評価とは裏腹に、彼のプライベートは破滅的である。

不法侵入、暴行、窃盗、アルコール依存、酒気帯び運転で大事故を起こし左手の指を2本切断。

元恋人からはDV、精神的虐待により裁判を起こされた。

数々のヒット映画に出演しながらの大事故により、シャイアはカウンセリングを受けることとなる。



そこでの診断は「PTSD」(心的外傷後ストレス障害)

極限の状態におかれる兵士に多いと言われてきたPTSDだが、特に虐待を受けた経験のある場合も発症しやすいと言われる。

私は、彼の作品の中でアクションよりも繊細な役どころの切ない表情が何とも言えないひっかかりと激情を帯びていることに興味があった。



それは、彼の過去やプライベートを知らずに出演作品を観ている頃から感じていたものであったが、
2019年に公開された彼の自伝的映画「ハニーボーイ」を観て、彼の”深部”にあるものを知った。



ストーリーは、俳優として軌道に乗り始めたシャイア自身(劇中ではオーティスという名)が事故を起こすところから始まる。

カウンセリングでPTSDの診断を受け、12歳の頃の自身と向き合うようになる。

元ヒッピー、元アルコール依存症、元性犯罪者でありピエロの仕事で僅かな収入を得ていた父親と
子役として一家の生計を支えていた12歳のシャイア。

実の父親を演じるシャイア。

野心家だが経済的支援を必要とし、それ故に脆く、愛し方を知らない父親と、その父親に暴力を振るわれながらかろうじて存在する”家族の愛”を守るために演じる息子。

マネージャーとして俳優業に口を出す父親と家族になりたい息子。
たった2人の生活。



「ただ手を繋いでほしい」

その12歳の想いは、息子に頼らざるを得ない父親を追い詰めていく。

不甲斐なさに押しつぶされる父親と大人にならざるを得なかった息子の痛みが蜂蜜色の美しい情景に重なる。

家族という純粋でいて絡み合った鎖を紐解くように描いていく作品であり、観ていて誰の中にもあるヒリヒリとした傷が浮かび上がる。



シャイアの父親役を、シャイア自身が演じる。
この脚本を書くにあたり、どれほどの覚悟がいっただろう。

ストーリーの結末に映し出される決意と赦しは、すべてを正すためではなく「現実の自分」を受け入れるほんの1歩である。

小さな歩みであるからこそ、その温かさをいつまでも覚えていたいと感じられる稀有な映画だった。

私たちはいつも汚されて目覚めていく。

そして、いつか自分を愛するために。



シャイアのみならず、「スタンド・バイ・ミー」のリヴァーフェニックスのような毒親育ちはハリウッドにたくさんいる。

旨みの強いエンタメ業界では、子役時代に周囲の大人から搾取が始まる。
だが、生きるために仕事を続けなければいけない。




だからこそストイックな役作りと、
唯一無二の難しい役どころが自然とできてしまうのが皮肉でもあり、彼らの力強い才能であったりする。

だが、その根深い構図は本人も理解し難いほど人生に染み込み、氣づいた頃には自身を壊していく。



現在、様々な問題を抱える中で立ち直りプログラムを受けているシャイア。

彼のこれからが、柔らかな光に包まれてほしいと願わずにいられない。

現在、「ハニーボーイ」はAmazonプライムで観ることができるのでプライム会員の方はぜひ観てほしい。
(字幕設定忘れずに)


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